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THE VICINITY OF IZUMO

2021年12月11日土曜日

血の気の引いた出来事

先月3日の日記に、今までで一番の「血の気の引いた」出来事があったって書いたけれど今回はそのハナシ、かなり長文ですが興味のある方はお付き合いください。

前にも書いたけれど、転職して東部高等技術校に勤める前は広島市にある中国JRバス本社の総務部人事課にいて、阪神淡路大震災発生時には災害派遣で神戸に赴いたりしましたが(その時の様子はこちら)人事課の前は同じく本社内の運輸部運行車両課っていう部署にいました。ここでは主に各営業所に在籍するバスの統括管理、洗車・給油を担う協力企業との単価交渉や契約、広島県で導入が決まった各社共通バスカードについて他社との調整などをやっていましたが、中には新車の発注という仕事もありました。

バスというやつは各社ごとのデザイン以外ガワの見た目は同じですが実はほぼオーダーメイドで、例えば貸切バスの場合など席の配置はこう、フロアはこれ、シートはこれ、カーテンはこれ、カラオケはこれ、照明はこれって感じで決定事項が多岐に渡り、最終的には仕様書の厚みが1センチぐらいになります。そして発注担当者はその当時ワタシ一人、言うなれば個人のセンスが問われるわけで、やりがいはあるけれど責任重大です。当時のバスの値段はというと、一般的な乗合バスで2,500万円、貸切バスで4,000万円ぐらい、トイレ付きの高速バスとなると5,000万円以上にもなります。ワタシは運行車両課にそこまで長くはいなかったんですが、それでも10台以上発注しました。

そして人事課に異動する前の最後の作品が、出雲ー広島間で使うトイレ付き3列シートのスーパーハイデッカータイプ高速バス「スーパーみこと」、発注先は三菱ふそうです。この会社は国鉄バス時代からの流れで本社内にJRバス専門の部署があり、ワタシと同世代の営業さんが毎回そこから来られます。その営業さんと一つ一つ仕様を詰めていくワケですが、シートのデザインを決める段では縫製系各社から出された見本の中から一目で気に入った「Mタヒチ」っていうダークグレーの地にワンポイントで画家のゴーギャンが使うようなオレンジ色の短い波線が数本入る新作の生地に決定、内装その他もそのシートに合わせてシックにまとめ、パース図を見た観光課の課長から「何で路線バスをそこまで良くするんだい?」って言われるほどの会心の仕様でした。

発注してから待つこと数か月、先方から完成検査の連絡が入りました。完成検査は納車の半月ほど前に組み立て工場(当時の三菱ふそうは名古屋)に出向き、仕様書どおりにちゃんとできているかどうかをチェックする作業で、指摘した塗装のムラや内装のズレなどを直した後に納車となります。だいたい数十箇所程度指摘しますが毎回それほど大きな補修箇所も無く、ワタシにとって完成検査は気晴らし出張みたいなもの、おまけに先方としても「相手はまだ30代の若造だけどまたバスを発注してもらいたいので、ここはちょっとだけもてなしておこう」っていうのがあり、着いていきなり上握りの昼食、夜はちょっとした料理屋で食事、たまには錦にあるクラブへご招待って感じです。完成検査から戻るたびに冗談好きな事業課の課長代理がニコニコ近づいてきて「どれどれ、お土産のひもの跡が付いてるんじゃないの?」とか言いながらワタシの手の平を調べたりするんですよ。

ああ、前置きが長くなってすみません。まあもう少しご辛抱下さい。

そしていよいよスーパーみことの完成検査、この時の検査はこれ1台だけだったので名古屋に着いたその日のうちにやりました。特に問題無く外装検査が終わり内装検査へと移りましたが、中は新車のいい匂いがプンプン、Mタヒチのシートもいい感じで狙ったとおりの仕上がりです。時間はたっぷりあったので前から順にゆっくりと見て行きましたが、ん、何か違和感が・・何だろうこの違和感・・そして次の瞬間「あっ!!あああっ!!」、思いっきりうろたえながら営業さんに「あの~、トイレの位置が左右逆じゃあないですかねえ?」営業さんは慌てて仕様書をめくり「ああ~、確かに仕様とは逆になってます!!」この時です、2人そろってゾゾーっと血の気が引いたのは。この部分については発注時にお互いしっかりと確認したんですが・・・

特急便で使う「スーパーみこと」は急行便の「みこと」と同じく一畑バスさんとの共同運行、指定席乗車券は両社をつないだパソコン画面の座席表を使って発券するので、座席の位置が同じでないとこのシステムが使えません。トイレの位置が逆なら当然座席の配置も違います。ワタシはすぐ本社に電話を入れて乗合課の課長に状況を話し、そそくさと残りの検査を済ませて広島へ飛んで帰ります。営業さんは営業さんで「すぐに対応策を検討して早急に連絡します」って名古屋駅まで送ってくれましたが、その間2人とも顔面蒼白なままです。数日後、三菱ふそうから複数の方が謝罪のため来社され役員相手に人為的ミスがあったことを報告された後、

・後からトイレの位置を変えるのは、バスを一から作るのよりも手間がかかる
・従って運行開始日までにバスを改修することは不可能
・このまま納車させてもらえれば大幅な値引きをする

といったことを話されたそう。ワタシは同席していなかったのですが、結構な値引き額だったことが後でわかりました。一畑バスさんには「システムの改修はできないので、発券する際にはパソコン画面と紙の座席表を見比べて座席番号を割り当てる」ということで折り合いをつけてもらいましたが、チケット窓口にはせっかく便利な発券システムがあるのに、このバスが出雲ー広島間の運用を外れるまでは煩わしい作業を強いられます。後日ワタシは運輸部長と共にまだバス部門が独立する前の一畑電鉄本社を訪れ、2人して平身低頭謝罪しました。その後何とか運行を開始したスーパーみことですが、ワタシがこだわった内装については結構高評価だったのがせめてもの救いでした。

以上が「血の気が引いた」出来事の顛末です。最後まで読んでいただきありがとうございました。ワタシが発注を担当したバスの画像がネットにあったので勝手に掲載させてもらいました。場所は広島駅新幹線口のようです。


血の気が引いたスーパーみこと。

広島空港エアポートリムジン。

これはエアポートリムジンの三面図、記念に今でも持っています。